部下を叱ることと怒ることの違い
まずは、混同しやすい「叱る」と「怒る」の違いについて解説します。この基本的な違いを理解していないと、育成につながる叱り方はできません。
叱るとは
叱るとは、相手のためを思ってアドバイスや注意をすることです。叱る側は、あらかじめ問題点や改善点をしっかりと考えた上で、言葉にしなければなりません。
感情に任せて怒鳴り散らすのは、「叱る」ではありません。
怒るとは
怒るとは、自分が悪い影響を与えられて腹を立てることです。自分の指示に従って動いてくれなかったり、自分が望む結果を出してくれなかったりしてイライラした経験がある方も多いでしょう。
相手のためではなく、自分のイライラした気持ちや不愉快になった事実を伝えるために、感情に任せて相手を責めることが「怒る」です。
怒られた部下は萎縮してしまい、改善できないどころか離職につながるおそれもあります。部下の育成を行うのであれば、怒るのではなく成長に導く叱り方をしなければならないのです。
部下の上手な叱り方とは
叱り方にもポイントがあります。部下が萎縮せず、言動や仕事方法を改善してくれるためには、部下の心に響く上手な叱り方をしなければなりません。下記に、上手な叱り方をするためのポイントを4つ紹介します。
説得するのではなく納得させる
叱るのがいくら部下のためとはいえ、人間関係が悪化する可能性も否定できません。「嫌な上司」と思われず成長してもらうためには、部下を説得するのではなく、納得させることが重要です。
人は自分の思いや考えなど、自分の意思と近いものには納得しやすい傾向にあります。叱った内容が「なるほど、そうだな!」と腑に落ちたときに、はじめて納得できるのです。
納得させるコツは、部下が自分で考えて決定する場面をつくって、自分が決めたことと思わせるような言葉のチョイスをすることです。こうすれば、モチベーションを下げることなく成長につなげられます。
逆に説得させてしまうと、部下は「考えを押し付けられた」と感じるでしょう。こうなると、警戒心や不信感を抱きやすくなるので注意しましょう。
タイミングと場所を考える
叱るタイミングは、間違った行動をしたときです。その場、そのときに叱ることが一番伝わりやすいといえます。
しかし、相手に余裕がないように見える場合は、叱るタイミングを変えたほうが良いでしょう。焦ったりバタバタしていたりするときに叱っても、叱られた内容を理解できず、思考を停止してしまい、内容が伝わりにくいです。
そして、叱るときは直接言うようにしましょう。メールやチャットの文章では、内容が伝わりにくくなるほか、感情的になりやすいデメリットもあります。
叱るときは、できるだけ2人きりの場所を選ぶようにしてください。ほかの社員がいる前で叱ると、部下によっては「恥をかいた」と感じることがあります。
もちろん、状況によっては、人がいる場所でもすぐに叱らなければならないこともありますが、それ以外であれば、会議室や個室など落ち着いた場所で叱るようにしましょう。
主観を入れない
叱るときは、事実確認からが基本です。たとえば、遅刻が多い部下に対して叱るのであれば、「最近は、週3日遅刻しているよね?」と確認します。
しかし、ここに主観が入ると「週3日も遅刻するのは、仕事に対してやる気がない証拠だ!」という言い方になってしまうのです。
事実と主観が混同するのは、上手な叱り方とはいえません。あくまでも、事実だけを用いて話すようにしましょう。
自分の意見として伝える
普段から仲が良かったり、お互い親しみを感じたりしている部下を叱る際「嫌われたくない」といった感情から、叱ることにためらいが生じることがあります。
だからといって「課長に怒られるから」や「先輩に注意されるから」など、他人のせいにしてはいけません。
他人のせいにしてしまうと、注意すべき点がうやむやになり、解決につながらなくなるおそれがあります。信頼関係があれば必ず納得してくれるはずなので「僕の意見はこうだと思うけどどうかな?」や「その部分はもう少し気をつけなさい」など 、自分の意見や判断として伝えることが大切です。
ただし、いくら信頼関係があっても伝え方が悪ければ反発心を生んでしまいますし、逆に冗談っぽく伝えてしまうと相手には響きにくくなってしまいます。
具体例を出す
抽象的な叱り方をしても、部下の成長にはつながりません。部下がどのように改善すべきなのかを具体例を出して叱ります。
よくある叱り方を例に挙げると「もっと頑張って営業しろ!」というものです。これは、かなり抽象的な例ですが、部下からすれば何を頑張れば良いのか分からないため、成長できません。
これを「先月は遅刻も多く2社しか営業ができていないから、今月は遅刻をゼロにして4社営業できるようにしていこう」と具体的に示せば、部下に伝わりやすいです。
成長につなげるためには、部下の意識を変えるのではなく行動を変えることに意味があります。具体的な伝え方を考えた上で、叱るようにしましょう。
最後にフォローを入れる
相手を叱るのではなく、最後には「この判断は良かった」や「次はできるはず」などのフォローを忘れずに行いましょう。フォローは普段どおりに声をかけて、気まずさなどを解消させるには欠かせないからです。
可能であれば「ここは良かったけど、ここは注意しよう」などのように、褒めた後に指摘するほうが良いでしょう。最初に褒めて相手の感情をポジティブにした後に指導すると相手もすんなりと注意を受け入れやすいです。
また、指導後に問題点を改善できている場合、しっかりと褒めるようにしましょう。改善できている点を褒めてあげれば、部下はしっかり見てもらえているなど感じることができるため、感情をポジティブにでき、改善に向けて自発的な行動を促せるでしょう。
社会人になるとできているのは当たり前という感覚に陥ってしまい、叱るだけ叱って、褒めたり、フォローしたりしない人が非常に多いです。部下をやる気にさせるためには、フォローすることも重要なため、しっかりと行うようにしましょう。
部下の間違った叱り方とは
上手な叱り方がある反面、間違った叱り方も存在します。間違った叱り方をしてしまうと、部下にネガティブな感情をもたれ信頼関係にヒビが入ったり、仕事に支障をきたしたりする可能性が否定できません。
ついやりがちな、間違った叱り方を紹介します。
感情的になる
先ほども解説したように、感情的になるのは「叱る」ではなく「怒る」になってしまいます。そもそも、部下を叱らなければならないシーンでは、つい感情的になりやすい事象であることが多いので、怒ってしまうのも無理はありません。
しかし、本当に部下のことを思うのであれば、深呼吸して感情的になるのを抑える必要があるのです。
叱る側も人間ですから、怒りの感情はあります。まずは、その感情を上手くコントロールしてから本題に入りましょう。
「深呼吸して感情的になるのを抑える」というのは、人の怒りは約6秒で収まると言われているからです。怒りの感情があるときは、約6秒置いてから冷静に叱るようにしてください。
感情的に怒ってしまえば、相手に伝わるどころか反発心を抱きます。これは、部下が直接反発して口答えしてくることではありません。態度や口に出さずとも、心のなかで反発して怒りが湧いてくるのです。
反発心が芽生えると、素直に言葉を受け取れなくなります。こうなってしまっては、部下も成長できませんし、人間関係も構築していけません。
「叱るときは冷静に」を、常に意識しておきましょう。
人格や能力を否定する
部下の個性・性格・容姿・育ちなどを持ち出して叱るのは厳禁です。人格を否定することになってしまいます。
相手の人格や価値観を否定するような叱り方をすると、相手は自己肯定感や尊厳を傷つけられたと感じてしまうでしょう。そうなると、人間関係が悪化し、信頼を得ることはできません。
また、このような言動はハラスメントとして扱われてしまいます。そのため、人格や価値観には触れず、行為や手順などにフォーカスを当てるようにしましょう。
他人と比較する
「同期の子ができているのになぜ君はできないの?」や「後輩ができているからあなたもできるでしょう」などのように他人と比較して叱ることはやめましょう。他人と比較してしまうと人前で叱られているのと同じように、相手に恥をかかされたと思ってしまい、叱った内容を受け入れにくくなります。
また、励ましたつもりで言った場合でもプレッシャーとなってしまい「自己効力感」の低下にもつながりやすいため注意しましょう。
過去の出来事を持ち出す
部下を叱る際、過去の出来事を伝えることはやめましょう。叱る度に過去の出来事を持ち出されると、部下は「いつまで昔のことを引きずっているんだ」などと感じるようになるため、気分が悪くなるほか、反発心が生まれるきっかけになります。
反発心が生まれると素直に指導を聞かないなどの事態になりかねません。叱る時は今起きていることに絞り、過去の出来事は切り離すことが大切です。
ダラダラと長く叱る
長時間ダラダラと叱ることはやめましょう。長時間叱り続けてしまうと「怒りのエスカレーション」が起きてしまいます。
怒りのエスカレーションとは、叱り続けることで叱っている側の怒りが増幅する現象のことです。怒りのエスカレーションが生じてしまうと、叱っていた本来の問題とは異なる過去の出来事を持ち出してしまったり、感情的となってしまったりと叱るから怒るという事態になりかねません。
そのため、ダラダラと長時間叱るのではなく、今起きたことだけに絞って叱り、短時間で終わらせることが大切です。また、部下のミスやトラブルに対して怒ってしまうことがあるかと思いますが、怒りに任せて指摘するのもやめましょう。
これも前述のとおり、叱るのではなく怒るになってしまうからです。効果的な対処法として「怒りをこらえて6秒待つこと」が挙げられます。
怒りのピークは最大6秒だといわれており、6秒耐えればある程度イライラが収まるため、そのタイミングであれば冷静に叱ることができるでしょう。
そもそも信頼関係を築けていない
信頼関係が構築されていない部下には、叱らないほうが良い場合もあります。信頼関係が構築できていなければ、どんなに上手な叱り方をしても反発心を抱かれる可能性が高いためです。
逆に、信頼関係が構築できている部下の場合は、多少下手な叱り方になっていても「自分のために叱ってくれている」ということが理解できるので、素直に聞き入れ成長につながります。
同じミスを繰り返す部下への指導法
何度叱ってもミスが減らない、同じミスを繰り返すといった場合は指導方法を見直すことも大切です。
ただし、そもそも部下が仕事に集中できない状態である可能性も考えられます。何らかの問題を抱えている部下を叱ると、精神的に追い詰めてしまうかもしれません。
まずはキャパオーバーになっている、病気を患っている、ストレスが溜まっている、プライベートでトラブルが発生しているなど、何か問題が起こっていないかを確認してみましょう。
こうした問題がなく仕事に集中できる状態であると確認できたら、下記の点を確認します。
・部下が委縮していないか
・仕事の指示を理解できているか
上記の2つのポイントについて、詳しくみていきましょう。
部下が委縮していないか確認する
これまでに叱責された経験がある部下は、「またミスをするのではないか」「叱られるのではないか」と不安を感じて委縮してしまっている場合があります。その結果、仕事に集中できなくなり、かえってミスが増えることがあるのです。
また、聞きたいことがあっても忙しそうで聞けないなど、周囲に気を使いすぎてミスをしているケースもあります。
部下と面談する機会を設けるなどして、過度にプレッシャーを感じていたり気を使いすぎたりしていないかを確認してみましょう
萎縮や気の使い過ぎが原因の場合、気軽に質問したり話しかけたりできるよう、環境を整えて精神的な負担を軽減するとミスが減る可能性があります。
仕事の指示を理解できているか確認する
そもそも指示の内容を理解できておらず、何度もミスをしているケースもあります。単に上司から指示を出すだけでは聞き流してしまうことがあるので、指示を出したら内容を復唱してもらい、指示内容を理解しているか確認すると良いでしょう。
「後で復唱しなくてはならない」と思っていると、しっかりと耳を傾けるようになります。また、最後に質問がないか確認したり、様子を見て上司側から困っていることがないか声をかけたりするのも効果的です。
相手にあわせたり方も意識しよう
「部下」と一口に言っても、新入社員(Z世代)や年上、自分より勤続年数が長い社員などさまざまな属性の人がいます。部下を叱るときには、それぞれの属性に合った叱り方を意識することも重要です。
ここでは、新入社員を叱るときと、自分より年上だったり勤続年数が長かったりする人を叱るときのポイントを解説します。
新入社員の場合
社内では新入社員と上司という立場の違いはありますが、人間としての立場は同等です。部下を叱るときに、見下すような話し方や態度を取るのは良くありません。
ほかの新入社員と比較されるとやる気が削がれてしまうので、「〇〇はこれくらいできていた」といった指導をするのも避けましょう。
また、Z世代は自分の価値観を大切にする人が多い傾向にあるので、部下のタイプを見極めて、それぞれに合った指導をするのも大切です。
「【タイプ別】部下の指導・育て方|管理職が心がけるべきことを解説」
自分より年上の人、勤続年数が長い人の場合
自分より年上だったり勤続年数が長かったりする部下に対しては、感情的にならないよう、常に意識して丁寧に話し、相手のプライドを守ることが重要です。
年齢や勤続年数が上である分、「自分のほうがこの仕事を理解している」と思う人もいます。なぜこうすべきなのか理由や動機も明確に伝え、相手が抱いている違和感や疑問を解消するようにしましょう。
また、叱った後に気まずい雰囲気を出すと、お互いの関係や社内のムードに悪影響を及ぼす可能性があります。一通り話し終わったらいつも通りに話しかけるよう心がけましょう。
部下との信頼関係を構築するには?
部下と信頼関係が構築されていると、叱った際に問題解決につながりやすく、成長も促しやすくなります。現状で部下との信頼関係の構築が不十分だと感じている場合には、次のようなことを実践してみましょう。
日頃から挨拶や声かけを行う
挨拶は職場だけでなく、プライベートを含め日常生活のあらゆる場面で大切なことです。普段から部下に対して声をかける機会が少ない場合には、毎日挨拶をするだけでも意識が変わってきます。
挨拶をするときには、下を向いたままではなく、きちんと顔を見ることが大事です。お互いに顔を見て挨拶をすることで、話しかけやすい雰囲気が生まれます。挨拶をしたときに、悩みや相談を打ち明けられることもあるでしょう。
そのようなことが日々積み重なることで、少しずつ部下との信頼関係が構築されていきます。
また、自分から部下に対して仕事の進捗や悩みがないかどうかなどを確認することも大事です。気にかけてくれているということで、信頼アップにつながります。
部下の話を聞く
自分の話を相手に聞いてもらうには、まずは自分が相手の話をきちんと聞くことから始める必要があります。仕事の話からプライベートの話までよく聞くことで、相手のことをより深く知れるでしょう。
相手から見れば、親身になって話を聞いてもらっているということで、信頼が高まっていきます。
また、部下の話を聞くときに、ほかのことをしながら聞く人も多いかもしれません。しかし、ほかのことをしながらだと、きちんと聞いてもらえていないように感じられることもあります。いったん手を止め、相手の顔を見て話を聞くことが大切です。
話を聞いている途中で、否定するようなことを言ったり、一言で要約してしまったりするのも避けましょう。あまり親身になって聞いてくれていないように感じられてしまいます。
期待していることを伝える
上司が部下を叱るのは、部下の成長に期待しているためです。ただ、なかなかミスが改善されなかったり、うまくできるようにならなかったりすることもあるでしょう。
期待どおりにいかなくてイライラすると、つい感情的になって強い言葉を使ってしまいがちです。そうなると、信頼関係が崩れてしまい、ますます期待から遠ざかる結果になってしまいます。
そのため、部下に対して期待しているということをしっかりと伝えることが大切です。伝えることで、部下も期待に応えようとしてくれるでしょう。
メンタルサポートに頼ってみる
部下の叱り方や信頼関係の築き方などが分かることと、実際にそれができるかどうかは別です。どうすれば良いのか分かっていても、うまく叱れず怒ってしまったり、信頼関係をなかなか築けなかったりする人もいるでしょう。
そのようなときには、メンタルサポートを検討してみましょう。メンタルサポートを実施することで、部下とのコミュニケーションの取り方やリーダーとしてのあり方を自覚しながら仕事を進められるようになります。
そして、メンタルサポートを実施するなら、東京・ビジネス・ラボラトリーがおすすめです。東京・ビジネス・ラボラトリーでは、心理学のメソッドを用いた社員育成をサポートしています。人間力をアップさせることで、部下との信頼関係も構築可能です。
社内の雰囲気も良くなり、業務効率や業績のアップにもつながります。
まとめ
人を叱る行為は、とても精神力がいる行為です。伝え方ひとつで、相手との関係性が変わってしまうこともあります。
メンタルサポートを取り入れて、個々の人間力をアップさせ、最大限の能力が発揮できる職場にしましょう。