やる気がない部下に上司が最初にすべきこと
部下にやる気が感じられないとき、上司はまずどうしたら良いのでしょうか
何事も問題解決に当たっては、まず現状を把握することが必要です。部下にやる気が感じられない場合も同様で、その要因を探ることがファーストステップになります。この場合、できるだけ本音で洗いざらい話してもらった方が良いので、部下が話しやすい環境をつくることが大切です。
部下が話しやすい環境とは?
まずは話す場所です。会社の場合であれば、いつも打ち合わせや会議などで使う部屋など、ほかの社員に話を聞かれる心配がない場所が良いですね。よく、退社後にバーなどに連れ出した方が話しやすいのではと考える上司がいますが、部下がわざとらしく感じる場合もあるので、いつもの環境でも構わないと思います。
次に、部下の精神面。部下がその状況に緊張している場合は、さりげなく共通の話題などでアイスブレイクをしてから本題に入るようにしましょう。
そして、ここからが肝要なところですが、部下が最後まで好きに話せるようにすること。つまり、話し終えるまで聞き役に徹することです。簡単なようで、案外難しいと思います。最近は「1on1」を行う企業が増えていますが、上司が8割方しゃべって終わりというケースがよくあります。1on1は何のために行うのかを再確認し、普段から部下の話に耳を傾けることを習慣づけると、いざという場合に有効です。
聞き役に徹するのは、どう難しいのでしょうか?
上司からすれば「甘ったれている」としか思えなかったり、共感できないことが部下の口から出てくると、怒りが込み上げて途中で意見を言ったり、叱ったりしてしまう上司が少なくありません。そうされたら、部下は話す気持ちが一気に失せてしまい、情報収集ができなくなりますね。
また、上司の聞く態度も重要です。ふんぞり返って腕組みなどされていたら、部下は萎縮して正直に話さなくなるかもしれません。姿勢や表情、言葉遣いや声のトーンを柔らかく、優しくして、部下がリラックスできて話しやすくなる雰囲気をつくることが大切です。
カウンセリングにおいては、「傾聴する」ことが非常に重要です。部下を持つ管理職であれば、ぜひ傾聴力を身に付けていただきたいですね。
話し方として、良い方法はありますか?
「I・メッセージ」と言うのですが、「私」を主語にする話し方をすると、相手の負担感が減ります。例えば、「君にやる気が感じられない。それは君の問題だ。何があるのか話してほしい」と言われるのと、「私は、あなたにやる気が感じられないのが心配で、今日ここに来てもらったんだけれど、私のためにも話してくれるかな?」と言われるのとでは、どちらが話しやすく感じるでしょうか?
後者が話しやすいのは、その場の状況の責任は上司にあると部下が感じられるからです。部下にしてみれば、自分の責任が希薄に感じられます。前者の場合は、自分が問題で、自分に責任がある。心理的に重い負荷がかかってしまいます。
やる気がないのには要因がある。部下への対処法とは?
部下のやる気がない要因にはどんなものがありますか?
いろいろな要因があると考えられますね。例えば、「現在の仕事はやりたいことの方向が違っている」「出す案出す案、全部却下されて自信を失くした」「失敗するのが怖い」「ハラスメントに遭っている」「家族や恋人との関係、お金、健康などプライベートの悩みがある」などが挙げられます。
上司は部下の抱える問題に応じて適切な対処をすることになります。例えば案が却下されるのは、案自体に魅力がないのか、説明方法がうまくないのかなどさらに要因を掘り下げ、後者であれば説明が上手そうなトップ営業担当者にアドバイスしてもらうことを促すといった対処法が考えられます。
ハラスメントの場合は、相手を聞き出して注意するといったことを迂闊に行うと問題を悪化させてしまうリスクがあるので、社内の担当部署や社外のホットダイヤルなどに相談することをおすすめします。
また、プライベートの悩みが深い場合、メンタルヘルスの問題に繋がるおそれもあるので、会社が契約している専門家への相談に繋げることが大切でしょう。
しかし、部下も大人です。上司にすっかり話して受容してもらえたと感じたならば、どうすれば良いかという解決策が部下の中に生まれる場合が多いのです。このためにも、傾聴力は大切です。上司が真摯に対応することで、最悪部下が退職をすることになっても、恩義を感じてしっかり引き継ぎを行ったり、関係部署に挨拶して回ったりなどと「良い辞め方」をしてもらえることにも繋がります。
「失敗が怖くてやる気が出ない部下」へはどんな対応ができるでしょうか
怖いのは、どうなるかわからない不安があるからです。あるいは、失敗したらこういう悪い状態になってしまうといったイメージを持っているのかもしれません。ならば、実際に失敗したらどうなるかを一緒にシミュレーションして、既存のイメージを書き換えれば良い。悪しきイメージを、実は失敗しても大したことがない、あるいは失敗から糧が得られるといったポジティブなイメージに替えるわけです。
上司自身に対処スキルが低いと感じる場合は、どうすべきでしょうか?
コーチングやカウンセリングなどの専門的な研修を受けることをおすすめします。なぜならば、要領を得た知識が得られたり、ロールプレイングで練習できたりするからです。ロールプレイングにはそのための設定が必要で、ひとりではできないと思います。
小規模企業の場合、こうした研修を受講する予算が厳しいといったケースがあるかもしれませんが、問題が大きくなった場合のリスクや損失を考えればかえって高くつくことも考慮すべきでしょう。聞く力が高まれば、営業面にも好影響が及ぼされるメリットもあります。
また、ネットでも必要な知識は無料で得られると思います。傾聴力とはどういったもので、どうすれば身に付くかといった情報はたくさんあるでしょう。
やる気がない部下へ企業ができること
企業として、日頃どういった準備をしていくと良いでしょうか?
従業員のやる気、モチベーションを高めるには、理念やビジョンを明確にして、何のためにこの仕事をしているのかという目的意識を持てるようにすることが重要です。
また、日頃から従業員の幸福度を高める「マインドフルネス」などのプログラムを導入すると良いかもしれません。一例を挙げれば、日々のTo Doの一つひとつに豊かな感情を付加するワークがあります。
たとえば、15:00の「顧客からヒアリング」というTo Doにどんな感情で臨みたいのかを加えるのです。
□15:00 顧客からヒアリング ワクワクする
このように感情を書き込むことで、業務に感情を紐づけ、それぞれの業務をより手応えのあるものにする。まさしくマインドがフルに広がり、終了時の達成感や幸福感を高めることができます。継続することで、出社が楽しみになるのです。
マインドフルネスは専門的な理論に基づいた訓練で発達させることができますが、普段から機嫌よくイキイキ働いている人は、自然とそうした発想で取り組んでいるものです。
また、仕事には得意・不得意、やりたい・やりたくないがあるもの。不得意でやりたくない仕事であっても、例えば「完遂できたら彼女とデートする」と自らインセンティブを付けることでやる気が変わることがあります。そんなちょっとした工夫も、マインドフルネスのトレーニングで学べるでしょう。
最後に、上司として、企業として必要な心構えについてお話しください。
研修でよくお話ししているのは「自分の人生の責任者になる」ということです。遭遇するあらゆることに対し、人は意識的・無意識的にどう対処するかを選択しています。その選択の責任はすべて自分にあると思うことです。そういった主体性があれば、何があっても他責ではなく自責として考えることができます。上司がまず責任者として行動することが部下が主体的に動くことに繋がります。主体的な人のところに人も情報も仕事も集まってくるもので、企業を構成する社員一人ひとりが主体的になることで成功確率がぐっと高まります。ぜひ参考にしてください。