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静かな退職とは?
静かな退職(Quiet Quitting)とは、2022年にアメリカのキャリアコーチにより広まった用語です。積極的に仕事に取り組むのではなく、淡々と与えられた仕事のみしか行わない働き方のことを指します。
静かな退職は「頑張りすぎない働き方」と訳されることもあり、仕事だけに縛られたくないと考えるZ世代を中心に広まりました。物理的に会社を去ることを示す退職と違い、仕事に対する熱意を失うなどの精神的な部分が大きく関係しています。
静かな退職が増加している背景
日本における静かな退職は増加傾向にあります。時代の流れや多様な価値観によって、働き方にも変化がみられるようになりました。ここでは静かな退職が増加している背景や、要因について解説します。
ハッスルカルチャーの衰退
静かな退職が増加した背景には、キャリア志向の増加によるハッスルカルチャーの衰退があります。ハッスルカルチャーとは、常に努力を怠らず働き続けることを美徳とする考え方を指します。
昼夜問わず働くのが当たり前という価値観のなかで仕事をするため、多忙なほど周囲に対して「仕事ができる」というアピール材料になると思われていました。
しかし一方で、働き過ぎによるストレスの増加や、急に意欲低下がみられる燃え尽き症候群のリスクなどの負の側面もあり、近年はハッスルカルチャーの風潮が薄れてきています。
長時間労働の是正と働き方の多様化
ハッスルカルチャーの価値観は、長時間労働の増加につながります。政府はこの状況を改善するために、ワークライフバランスを充実させる働き方改革などの施策を打ち出しました。
厚生労働省の調査によると、フルタイム労働者の月間総労働時間は164.0時間と示されています。
一方、令和6年2月のフルタイム労働者の月間総労働時間は159.5時間でした。労働時間が減った分、仕事とプライベートのワークライフバランスが充実しやすくなったことで、静かな退職を助長する結果となったのです。
また、リモートワークの増加や副業の推進など、多様性のある働き方が増えたことも仕事に対する価値観に影響を及ぼしています。
出典:
厚生労働省「毎月勤労統計調査 平成31年2月分結果確報」
厚生労働省「毎月勤労統計調査 令和6年2月分結果確報」
組織へのエンゲージメントの低下
ひとつの会社で勤め上げるという考え方が通用しなくなり、自分でキャリアをデザインする時代へと変化しつつあります。かつて主流であった終身雇用が崩壊し、先行きの見えない不安から一生懸命働くことに意義を見出せない方も少なくありません。終身雇用を前提とする労働者が減り、会社に対するエンゲージメントの低下につながっています。
静かな退職が発生する企業の要因
静かな退職は労働者個人の問題だけではありません。ここでは、静かな退職が発生する企業側の要因を解説します。
部下の離職を防ぐための方法について、こちらの記事をご覧ください。
部下が会社を辞めるのは上司の責任?離職を防止するための対処法
業務範囲や責任の所在が不明確になっている
日本企業の特徴として、業務範囲の曖昧さがあげられます。海外では社員一人ひとりの業務範囲が明確になっているケースが多く、責任の所在もはっきりしている傾向があります。
しかし、日本の企業では業務範囲の線引きが不明確なことが多く、仕事ができる人に業務が集中してしまいがちです。ほかにも業務が重複してしまったり、実力以上の仕事を任されたりすることがあり、ストレスを感じやすくなります。
また、責任の所在がわからないまま仕事をすると、トラブル発生時の対処に追われる場合もあるのです。余計な責任を追いたくない社員は、次第に必要最低限の仕事しかしない方が良いと考えるようになります。
公正な待遇・給与および評価制度がない
日本では年功序列を採用している企業が多く、勤続年数が長ければ成果の有無に関わらず評価される傾向があります。一方、勤続年数が浅い社員はいくら頑張っても、思うような評価が得られない場合があるのです。
会社に貢献しても正当な評価が得られず、待遇や給与面で不満が増すと、静かな退職の原因になります。
また、評価基準が不透明でどの程度待遇に反映されるのか不明確だと、不公平感や不満の引き金になりやすく、働く意欲が失われてしまいます。成果をあげても評価してもらえず、インセンティブもない状況では、モチベーションも上がりません。
組織におけるキャリアパスが不透明になっている
将来のキャリアパスがはっきりと示されていない場合、静かな退職につながりやすくなります。どんな経験やスキルを習得できるのか、報酬アップは見込めるのかなどが定かでない場合、精神的な見返りだけでは帰属意識が低下してしまいます。
ワークライフバランスを重視した働き方に変えたり、副業や兼業を重視したり、新たなスキルを習得するための時間にあてる方もいるかもしれません。
キャリアプランの構築が難しいという結論に至った場合、次第に成長意欲の喪失や仕事へのモチベーションの低下につながりやすくなります。
静かな退職が企業に与える影響
静かな退職をする社員が増えることは企業にとってもマイナス要因となります。ここでは、静かな退職をする社員が多い企業が受ける影響を解説します。
生産性が低下する
与えられた仕事のみをこなす社員が増えると、企業の生産性の低下につながります。同じ時間内で多くの業務をこなせる社員がいても、その能力を活かし切ることができなくなってしまうからです。
静かな退職をする社員は、必要最小限の労働のみしか行わず、自ら努力しようという思いには至りにくいのです。職場の活気が無くなり、新しいことへの挑戦意欲が失われることで、企業の業績も低下しやすくなります。
リスクマネジメントが低下する
静かな退職者は企業の中で傍観者になりがちです。問題に気付いても自分には関係ないと思い、自ら率先して解決しようとしない方が多いのです。
本来であれば改善されなければならないことが放置されると、ミスや事故のリスクが上がり、大きな問題に発展する危険性も潜んでいます。
職場環境・人間関係が悪化する
静かな退職をする社員は、一貫して自分の仕事量を増やすことはしません。イレギュラーな対応が必要になったとしても、他人事として捉えます。
ほかの社員の業務量が増えて過重労働になりやすく、心身ともにストレスが溜まると新たに静かな退職者を増やしてしまう場合があります。チーム全体の士気やモチベーションが下がり、職場環境や人間関係の悪化も避けられません。
人材の流出につながる
始めから静かな退職を望む社員はいません。会社に対する不平や不満がきっかけとなり、職場での働き方に疑問を抱くようになるのです。
問題解決を先延ばしにしていると、本当に退職してしまう社員もいるかもしれません。優秀な人材の流出にもつながりかねないため、早めに対策を講じる必要があります。
静かな退職への対処法
静かな退職のやる気を引き出すための対策ができれば、労働意欲を取り戻せるかもしれません。ここでは企業が行うべき対処法について解説します。
職場満足度調査を実施し改善点を探す
静かな退職者が増える原因を客観的に把握することが大切です。実態を知るために、職場満足度の調査を実施しましょう。
満足度が低い項目があった場合、どのように改善すべきかの回答欄を設けておくのもおすすめです。現場の声を真摯に受け止めて改善につなげることで、社員のエンゲージメントが高まりやすくなります。
雇用環境を整備する
社員のキャリアプランやニーズに合わせた働き方を整備すると、仕事に対するモチベーションを維持しやすくなります。
例えば労働時間の柔軟な対応や、業務における裁量権を与えることなどです。自ら考えて自発的に行動できるようになり、静かな退職者の減少が期待できます。
また、昇進だけでなく専門分野のスキルを高めるための選択肢なども用意すると、社員のキャリアパス構築に役立つでしょう。
公正な人事評価制度を導入する
公正な人事評価制度を導入することで、社員の士気が高まる可能性があります。今まで不透明だった評価項目や評価基準を明確にし、評価者によって評価に差が生じないよう配慮することが大切です。
人事評価制度の基本的な作り方についてはこちらの記事をご覧ください。
まとめ
静かな退職とは頑張り過ぎない、必要最小限の仕事以上は行わない働き方のことです。静かな退職者が増える背景は働き方の多様性や、帰属意識の低下などさまざまです。
生産性の低下やリスクマネジメント不足、人材流出などにつながりかねないため、早めに対策して社員にとって働きやすい環境を目指しましょう。
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