目次
リテンションマネジメントとは?
リテンションマネジメントとは、維持や引き留めを意味するリテンション(retention)と管理を意味するマネジメント(management)を組み合わせた言葉です。社員により長く働いてもらう手法として、近年注目を集めています。
ここでは、リテンションマネジメントの概要や注目を集める背景についてみていきましょう。
リテンションマネジメントは人材定着に有効
リテンションマネジメントは、社員により長く働いてもらう手法です。業績に関わらずすべての社員が対象となり、だれもが働きやすく長く働けるための施策といえます。具体的な施策の例は次のとおりです。
・リモートワークやフレックス制度の導入
・面談の機会を設定(メンター制度、1on1ミーティングなど)
・年数や役職に応じた研修体制の整備
また、リテンションマネジメントを取り入れることで、企業にとっても多くのメリットがあります。採用コストの削減や企業のイメージアップにも役立つため、積極的に取り入れていきましょう。
リテンションマネジメントが注目される背景
リテンションマネジメントが注目される背景には、雇用に対する考え方の変化や現在の日本が抱える社会問題が関係しています。
ひとつ目に、慢性的な人材不足についてです。少子高齢化の影響で10〜20代の今後を担う労働世代が減少していることは周知の事実でしょう。
それだけでなく、世代交代や転職によってベテラン社員の確保も困難になってきています。業界によっては売り手市場も影響して、人材確保がより一層難しくなっている状況です。
ふたつ目に、離職率が上がっている点が挙げられます。厚生労働省が発表する「令和2年雇用動向調査結果の概要」によると、離職者数は「7,272,100人」と入職者数と比べて「168,700人」も多かったと発表しました。
参考:厚生労働省「結果の概要」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/21-2/dl/kekka_gaiyo-01.pdf
転職に抵抗がない割合が増え、対策に取り組んでも効果が得られにくくなっているのが現状です。
そこで、人材確保や転職を防ぐ施策として効果的な、リテンションマネジメントに注目が集まっています。
リテンションマネジメント実施による効果
企業がリテンションマネジメントを取り入れるメリットは何でしょうか。
採用コストの削減や企業のイメージアップなど、連鎖的にポジティブな結果が得られるため、リテンションマネジメントに興味が出てきた方はメリットも確認してみましょう。
コスト削減に効果がある
ひとつ目のメリットは、採用コストのロスを削減できる点です。離職者が増えると人材派遣会社の利用や求人広告の掲載など、採用までにかかる費用が増えてしまいます。さらに、面接の対応に人件費もかかり、現場は人手不足で負担が増大してしまうでしょう。
そこで、リテンションマネジメントを取り入れ離職率を下げられれば、採用までにかかるコストを削減できます。現行のスタッフで業務を回せれば教育コストも抑えられ、さらなるコスト削減を期待できるでしょう。
企業の発展につながる
ふたつ目のメリットは、企業の発展につながる点です。人材を安定して確保できれば、長期的な事業計画が立てられます。
長く働いていればスタッフ一人ひとりのスキルや適性を見極められ、各スタッフをより活躍できる場に配置できるでしょう。やりがいのある仕事に取り組むことができれば、自ずとスタッフのモチベーションも上がっていきます。
スタッフのモチベーションが上がれば離職率も下がり、採用にかかる手間と時間も削減できるでしょう。その結果、効率的に動けるベテランスタッフが増え、労働生産性が向上し、企業の発展につながります。
競争力アップが見込める
リテンションマジメントによって離職率が下がると、経験豊富な人材が増えて、業務効率や生産性の向上が期待できます。
たとえば、製造職の場合は熟練の技術で素早く製品を製造してくれる、営業職の場合は顧客の情報を知り尽くし良い関係を築いているなどです。
高いレベルで業務をこなす社員は、会社にとってもかけがえのない財産です。業界や業種によって効果に差はありますが、長年の経験によりノウハウを蓄積している社員が増えれば、その分社員の集合体である会社の競争力アップも期待できます。
また、ノウハウを持つ社員が増えると、会社内での業務のレクチャーがスムーズになるため、即戦力となる人材を増やしやすくなります。
企業のイメージアップにつながる
最後に、企業のイメージアップにつながるメリットがあります。離職率が高い企業は、社員や入職希望者、ひいては顧客にマイナスなイメージを与えかねません。
そのため、リテンションマネジメントを取り入れスタッフが定着して働ける環境を作ることができれば、企業のイメージアップにつながります。企業のイメージアップに成功すれば顧客満足度が向上しやすく、入職希望者も募りやすくなるでしょう。
リテンションマネジメントに取り組む前に課題を可視化しよう
リテンションマネジメントに取り組むためには、事前の準備が必要です。まずは、自社の現状を把握し、課題を可視化する作業からはじめましょう。
離職につながる原因は、なるべく定性的、定量的な評価で分析すると、問題を可視化しやすいです。具体的には社内アンケートや社員面談を実施することで、社員の満足度や管理状況をヒントに離職がつながる課題を把握できます。
次に、面談時には離職者から、なるべく本音を引き出すようにしましょう。建前の意見では本質的な問題が見えづらくなってしまいます。そのため、社員から本音を引き出し、優先して取り組むべき課題を可視化しましょう。
そして最後は、すべての社員に取り組むべき課題を共有します。取り組むべき課題を明確化し解決のために行動を起こすことを共有すれば、社員の不安を取り除くことが可能です。
【取り組み事例】リテンションマネジメントの実施方法
リテンションマネジメントに取り組んだ具体的な事例を紹介します。
最近耳にする機会が増えた、「ワーク・ライフ・バランス」や「働き方改革」もその一環といえます。
また、社員の希望に沿った人事考課や階層別の研修実施も具体的な取り組みです。
ワーク・ライフ・バランスの重視した働き方改革
ひとつ目は、ワーク・ライフ・バランスを重視した働き方改革の事例です。ワーク・ライフ・バランスとは、仕事と生活のバランスが取れた状態を指します。
仕事を優先しすぎて家庭を顧みなかったり、プライベートを重視しすぎて仕事に支障が出てしまったりしている状態は、ワーク・ライフ・バランスが崩れているといえるでしょう。仕事と生活のバランスが崩れないためにも職場環境の整備が必要であり、次のような取り組み例があります。
・業務の偏りを是正し、どのスタッフも休日を取りやすくする
・効率化ツールの導入や業務の優先順位を決めて、残業を減らす
・仕事と育児を両立できるように、スーパーフレックス制度を導入する
また、副業の推進やリモートワークの導入など、スタッフへ働き方の選択肢を用意してあげることも有効な手段のひとつです。
社員の希望を重視した配置と適正な評価の実施
ふたつ目は、社員の希望をふまえた配置と適正な評価の実施をする事例です。社員には一人ひとりのスキルや経験、キャリアプランをふまえた配置の選択肢を提示してみてください。
社員としては、管理職から認められていると自覚ができ、モチベーションを高い状態で維持できます。さらに、社員の能力開発を目的としたジョブローテーションを行い、マッチする業務を見つけることもモチベーションアップにつながるでしょう。
また、適正な評価もリテンションマネジメントにおいて重要です。多面的に社員を評価できる「360度評価」や、社員同士が仕事の成果や貢献に対して感謝やささやかな報酬を送り合う「ピアボーナス」なども有効です。
社員のモチベーションアップにつながり、職場への定着率を上げる効果が期待できるでしょう。
社員同士のコミュニケーションの活性化
社員が長く働いている職場には「社員同士のコミュニケーションが活発」や「風通しの良い職場環境」といった共通点があります。
コミュニケーションが活発な環境では社員同士の仲間意識が生まれ、職場の定着率向上も期待できるでしょう。具体的な施策として、1on1ミーティングやメンター制度などで面談の機会を設けると、自然とコミュニケーションの機会が増えます。
可能であれば、社内部活動の推奨も効果的です。仕事の付き合いだけでなくプライベートもともにすると、横のつながりが強化され円滑な連携にも役立つでしょう。
このように、労働環境を整備することで社員同士のコミュニケーションが活発になり、風通しの良い職場の実現が期待できます。
階層別に研修を実施
最後は、階層別の研修を実施する事例です。階層別の研修とは「年齢や経験年数」「部署」「役職」といった点で区別し、能力を向上させる研修を指します。
階層別に研修を実施する理由は、次のキャリアへステップアップする道が見えやすくなり、モチベーションを高くもてるからです。主な研修例として、次のようなものが挙げられます。
・若手社員:実際の場面を想定したロールプレイ研修
・中堅社員:中級者向けのスキルアップ研修、キャリアデザイン研修
・モチベーションが低下している社員:メンタリング研修
自社で研修を用意できれば理想ですが、「ここまで手厚く教育制度を作るのは大変」と感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
東京・ビジネス・ラボラトリーでは、リテンションマネジメントに関する研修を行っており、新入社員から管理職まで幅広い世代の研修内容に対応できます。
さらに、プロフェッショナルの心理カウンセラーがメンタリング研修を担当するため、モチベーションが低下している社員のサポートも可能です。
リテンションマネジメントを実施している企業
ここからは、リテンションマネジメントを実施している企業から3社の事例を紹介します。リテンションマネジメントによってどのような成果が出ているのでしょうか。
サイボウズ株式会社:多様な働き方にチャレンジ!
東京に本社を構え、ほか国内9拠点にオフィスがある(2023年2月現在)サイボウズ株式会社は、ビジネス向けのグループウェア「サイボウズ Office」などを手掛けるソフトウェア開発会社です。
スローガンである、「100人いたら100人の働き方があってよい」という考え方に基づいて、性別や国籍、家庭環境などに捕らわれず働ける会社を実現する活動を行っています。
人材採用や定着率の問題に悩んでいた当時、従業員の声を聞いて多様な働き方を実践しました。すると、採用や教育のためのコストがおさえられるようになり、さらに離職率が下がるといった良い結果が生まれています。
1.働き方宣言制度
育児や介護など、ライフスタイルの変化に合わせて働き方を変えられる制度です。勤務時間や勤務地の変更が可能になっています。
2.ウルトラワーク制度
働き方宣言制度で決めた働き方と異なるスタイルでも、仕事ができる制度です。例えば、例外的に時差出勤をする、在宅ワークをするなどの場合に利用します。
3.育自分休暇制度
退職後6年間は、サイボウズ株式会社に復職できる制度です。育自分休暇制度により、復職のハードルが大きく下がっています。
そのほかには、「社内イベント・部活支援の実施」「副業の自由化」なども取り入れており、人事の公平性よりも個性を重んじることで、ひとりひとりの幸福度を追求しています。
クックパッド株式会社:「まかない制度」で満足度が上昇
クックパッド株式会社は「毎日の料理を楽しみにする」をミッションに掲げています。料理レシピを投稿してシェアできるウェブサイト「クックパッド」や新鮮な野菜を購入できるネットスーパー「cookpad mart」運営する会社です。
同社では、社員が自主的に食に関する社内の課題を発見し解決できるように、キッチンスペースを利用できる「まかない制度」を設けています。
「まかない制度」は、用意された新鮮な食材を使って、社員自身がまかないをつくり、「食事をしながら意見を交換ができる」というものです。食事を通して社員同士のコミュニケーションを増やし、風通しの良い社風にするという目的のもと行っています。
また、人材育成にも力を入れています。新卒入社3年目までの希望社員が利用できる海外研修制度があり、イギリスオフィスへの短期出向プログラムが用意されています。
そのほかには、キャリア形成を目的として他部署の仕事を2カ月間体験できる社内留学制度も行っています。研修や社内留学を取り入れることで、社員個人の視野が広がり、今後の意欲につながるなどの効果が期待できます。
スターバックス:ミッション浸透と教育投資で離職率の低さを誇る!
スターバックスは、世界最大のコーヒーチェーンストアを運営する会社です。創業者のハワード・シュルツ氏の「社員は会社の歯車ではない」という理念のもとに、当初からリテンションマネジメントに取り組んできました。
2023年現在は「ミッションと個人を関連付ける」をテーマに、「採用」「研修」「配属後」の3つのステップに分けた研修制度を設けています。
・採用
採用前に面接で、働く動機などをヒアリングし、個人的なモチベーションや自発的に業務に取り組めるかを確認します。
・研修
80時間にも及ぶ研修を用意し、お客さまとのコミュニケーションのあり方を中心に学びます。
多くの飲食店では、長くても研修時間が2~3日とされる中、スターバックスがいかに研修に力を入れているかがわかります。
・配属後
「内発的動機」を従業員育成に反映し、各従業員の成長モデルを策定します。まずは、従業員が自分自身の存在価値と期待感を高めたうえで、深い繋がりを持った関係性を、コミュニティを通して構築し、他者や店舗内に影響を与えて、さらには地域へ貢献できるように取り組んでいます。
以上の3つの段階を経ることでスターバックスの社員はモチベーションを高い水準で維持しているのです。スターバックスの離職率の低さは、ミッションの浸透と教育投資によるものであるといえます。
まとめ
事例からもわかるとおり、社員に長く働いてもらう手法として「リテンションマネジメント」は効果的です。部下や中堅社員の管理に取り入れると、離職率の低下を防ぐだけでなく、採用コストの削減や企業のイメージアップにもつながります。
「自社で研修を用意するのは大変」という方は、外部研修の活用を検討してみてください。