新しい経営方法のダイバーシティマネジメントとは?成功事例についても解説

近年、日本でも女性の就業率の増加や、外国人雇用の促進により、「ダイバーシティ(多様性)」が注目を集めています。もともとは人権問題や雇用機会の均等を説明するために使われていた言葉でしたが、多様な人材を登用することで組織の生産性や競争力を高める経営戦略として知られています。 ここでは、多様性を活かした経営戦略としてダイバーシティマネジメントについて理解を深めるためにも、必要性や導入するメリット、注意点などを解説します。


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ダイバーシティマネジメントとは

ダイバーシティマネジメントとは企業が従業員の多様な個性を受け入れ、それを活かしながら組織力を強化することです。「性別や国籍にとどまらず、多様性を企業の生産性向上や競争力強化に活かそう」という意味です。

しかし、日本では子育て支援制度が不十分であったり、英語が苦手な人が多かったりと制度や企業風土からダイバーシティマネジメントがあまり浸透していません。

ほかにも「性差の意識が強い」や「外国人労働者の受け入れに積極的でない」など、感情的な面でも多様性を受けいれにくい土壌となっているのが現状です。

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企業がダイバーシティマネジメントを実施する3つの必要性

企業がダイバーシティマネジメントを実施する必要性として、次の3つが挙げられます。

・少子高齢化による労働人口の減少
・日本企業のグローバル化
・働き方の多様化

いずれもビジネスを取り巻く環境と人々の仕事への取り組み方の変化に起因するものです。特にコロナ禍を経て、3つ目の点は大きくクローズアップされるようになりました。それぞれ詳しく見ていきましょう。

1.少子高齢化による労働人口の減少

現在の日本企業では、少子高齢化により働き手不足が深刻化しています。労働人口自体が減少しているため優秀な人材の採用が難しく、若い世代も減少傾向にあります。

働き手を確保するためにも、これまで働きたくても働けなかった65歳以上の方や外国人労働者を雇用するなど、採用の幅を広げる必要が出てきました。

2.日本企業のグローバル化

近年では、ビジネスをグローバル展開する日本企業が増えています。日本に訪れる、もしくは日本に住んでいる外国人の方も増加傾向にあるため、市場全体がグローバル化しているといえるでしょう。

今後はいわゆる「日本人」ではない層からのニーズに応えなければ、ビジネスの大成が難しいのです。さまざまなバックグランドを持った人々を雇用することで、多様なニーズへの対応が可能になります。

3.働き方の多様化

人々の価値観の変化により、多様な働き方を認める必要性が出てきたという点もダイバーシティマネジメントが注目されている理由の1つです。

近年では終身雇用も崩壊し、ワークライフバランスの重要性や子育てをしながら働ける環境の重要性が唱えられています。優秀な人材の確保には、働き方の多様性を認める必要があるといえるでしょう。

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ダイバーシティマネジメントを導入する3つのメリット

ダイバーシティマネジメントの導入がもたらすメリットは主に次の3つです。

・人材を確保しやすくなる
・新規事業やサービスが生まれやすい
・企業の社会的評価が高まる

優秀な人材を確保して新しいサービスが生まれやすい環境を整えると同時に、外部からの評価向上が期待できます。それぞれについて詳しく見ていきましょう。

1.人材を確保しやすくなる

日本は長らくの間、定年前の男性かつフルタイムで働ける層を主な労働力としてきました。しかし、少子高齢化が進み、従来と同じ方法では優秀な人材が不足する事態が顕著です。
ダイバーシティマネジメントでは、幅広い年代や国籍、性別の人を雇用の対象とするため、必然的に人材の確保が容易になります。それに加えて、テレワークやフレックス制、時短勤務を希望する層にまで採用の幅を広げると優秀な人材との出会いをさらに増やすことが可能です。

2.新規事業やサービスが生まれやすい

多様なバックグラウンドを持つ人材を抱えることで、組織としてより幅の広い顧客層の需要や心理の理解につながります。その結果として、新規事業の生まれやすい環境が醸成されるのです。

例えば「家で父親の介護をしながら働く男性」「幼稚園の送り迎えの時間帯は仕事ができない母親」「日本語を母国語としない子どもを育てる両親」といった社員を抱える企業があるとしましょう。

これらと同じ境遇の顧客が抱くニーズの理解においては、この企業は優位になります。さまざまな需要に目を向けられることは、顧客層を広げる効果を期待できるでしょう。

3.企業の社会的評価が高まる

近年では、高齢者や妊婦、障害のある方の雇用がCSR活動(企業の社会的責任)の一部として捉えられる場合もあります。そのため、ダイバーシティの維持に力を入れる企業は顧客から良い印象を抱かれる傾向にあるのです。

良い印象を抱いた顧客は購買意欲が向上する傾向にあります。また、企業への応募者が増加するため、良い人材が集まりやすくなる点も特筆すべきポイントの1つです。

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ダイバーシティマネジメントを成功させる3つのポイント

ダイバーシティマネジメントの実施にあたっては、次の3つのポイントをおさえる必要があります。
・スタッフ間のコミュニケーション活性化
・多様な働き方が実現できる労働環境の準備
・企業理念やビジョンの浸透
多様な個性を円滑に受け入れるためにも、ここではそれぞれの内容について解説します。

1.スタッフ間のコミュニケーションの活性化

スタッフの多様化が進むと、一律の評価軸では点数をつけきれない社員がでてきます。例えば、時短勤務をしている社員や日本語を母国語としない社員など、全員が日本国籍でフルタイムワーカーだった頃の評価軸に当てはめても不公平が生じかねません。

そこで、さまざまな社員の働き方や職務内容を理解した上で、評価制度を構築することが大切です。定期的な制度の作り直しも視野に入れた柔軟な姿勢が求められます。ちなみに、部下とのコミュニケーションにおける課題や育成方法に関しては次のページで詳しく解説しています。

部下のマネジメントに失敗する3つの原因|身に付けたい能力

2.多様な働き方が実現できる労働環境の準備

多様な人材を抱えるには、全員が能力を発揮できる環境づくりが必要となります。時短勤務を認める場合にはシフトの構築や引き継ぎ制度が必要となり、さらには外国人労働者を雇用するには言語のサポートが必要となるでしょう。

「働き方や特性に関わらず活躍できる」や「キャリアアップのチャンスが平等に与えられる環境を準備する」といった取り組みが必要です。

3.企業理念やビジョンの浸透

社員のバックグラウンドが多様化するほどに、全員を同じ目標に向かわせるのが難しくなります。これをクリアするために必要なのが、企業理念やビジョンの浸透です。

社内にいるすべての層が共感できる理念を掲げて浸透させることで、それぞれの行動のベクトルが揃います。また、理念を共有できれば、細かい行動指針の徹底が必要なくなるというメリットもあります。

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日本企業のダイバーシティマネジメントの実例

ここからは、日本企業のダイバーシティマネジメントの実例をご紹介します。令和2年度の新・ダイバーシティマネジメント経営企業100選に入選した3社は以下のとおりです。

・日本ユニシス株式会社
・エーザイ株式会社
・四国銀行

BIPROGY株式会社(旧名:日本ユニシス株式会社)

BIPROGY株式会社(旧名:日本ユニシス株式会社)は、1985年からシステムインテグレータ(SIer)や、サービスプロバイダーとして事業展開をしてきた企業です。

従来のビジネスを大事にして、それをどんどん深掘りし、ちょっと遠い場所にある面白いことを見つけようと、ダイバーシティマネジメントを導入。

ダイバーシティマネジメントの導入により、スタートアップの方たちとどんどん混ざり合うことができ、新たな考え方や価値観に触れることに成功しています。

具体的に得られた効果を3つ下記でご紹介します。

新規事業創出プログラム

新規事業創出プログラムにより、業種や業態を超えたステークホルダーなどの協業から、多くの新規ビジネスが輩出されています。

また、女性社員の意見を取り入れた、保育業務支援サービス「Chi Reaf Space」が新規事業として成長中です。

社員の働き方やエンゲージメントの向上

テレワーク制度などの導入をはじめとする働き方改革を推進。残業時間が減少し、有給取得率が向上したり、男性の育児休業取得率が向上したりしています。

女性管理職の比率向上

業界平均が8.0%に対し、令和2年度の新・ダイバーシティマネジメント経営企業100選に入選した際は、10.2%を達成しています。

エーザイ株式会社

エーザイ株式会社は、企業理念である「個を尊重して理解する」が、ダイバーシティそのものの考え方であり、社員全員に浸透しています。

日本で行われている取り組みを4つ下記でご紹介します。

多様な価値観を尊重できる自立型人材の育成

画一的な研修プログラムから、個々の多様なキャリア感に応じた選択型研修体系へと移行が進められました。

会社主導のキャリア形成から、社員個人の多様な価値観や挑戦意欲に基づく主体的なキャリア形成へのシフトを推進。

さらに、社内外へ越境を拡大し、多様な経験を経ながら新たな挑戦やキャリア開発に挑戦できる機会が提供されています。

多様性の確保

多様性を確保するために下記の7つの取り組みが行われています。

・マネジメント層の多様性を一層高め、新たな発想が意思決定に活かされる環境の構築。
・社員一人ひとりの個性や強みが経営、日常業務に反映される環境の構築。
・多様なリーダーの育成や輩出に向けた若手社員、女性社員対象のキャリア開発プログラムや挑戦機会の拡充。
・育児休暇取得後のスムーズな復職に向けた保育園などの情報提供や、希望者に対する休職中の自己啓発の支援。
・ベテラン層ならではの能力発揮機会の設定や、年齢を問わず継続的な挑戦ができる環境整備。
・2013年度より外国人留学生採用を開始。
・キャリア採用者の管理職への昇進・昇格において不利益のない公正な審査の実施。
・グローバルな主要ポジションについて、セッションプランニングのプロセスを年次で実施。国籍やジェンダー、年代などの多様性を確保した次世代リーダーの選出、育成、登用。
・Prayer Roomの設置など多様な国籍・宗教の社員に対する就業環境面の整備。

女性社員のキャリア開発プログラム

「志」と「仲間」をキーコンセプトに設定し、長期的な視点で、自分らしいキャリア感を醸成するための自立性、主体性、リーダーシップの開発を目指す「E-Win」が実施されています。

役員の多様性確保

2000年に外国人取締役、2006年に外国人執行役、2009年には女性取締役、2013年に女性執行役が就任しています。2022年6月17日時点で役員32名のうち外国籍が5名、女性が5名です。

四国銀行

四国銀行は、女性や障がい者雇用の推進など、あらゆる人材が活躍できるようマネジメントしている企業です。

具体的な取り組みを3つご紹介します。

女性活躍推進

四国銀行では、多様な人材の活躍推進の一環として、女性従業員一人ひとりが一層活躍できるように、女性のキャリア形成や継続就業を支援する取り組みが実施されています。

2020年度時点ですでに、女性の役職者は20%を超えています。

ワークライフバランスの推進

従業員が仕事と私生活を両立しながら安心して働き続けることができ、その能力を十分に発揮できるように各種支援制度の拡充と柔軟な働き方の実現に取り組まれています。

具体的な取り組みは下記のとおりです。

・次世代育成支援
・仕事と家庭の両立支援制度
・テレワーク
・時差勤務
・行員復職制度
・男性の育休取得推進

障がい者雇用

障がいのある方の継続的な雇用を通じて、就労機会の拡充とともに「働きがい・やりがい」をもてる職場環境の整備が進められています。

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まとめ

ダイバーシティマネジメントの導入にはさまざまな障壁がともないます。しかし、そのメリットを鑑みると、価値の高い取り組みであるといえるでしょう。

東京・ビジネス・ラボラトリーでは企業研修の一環として、管理職に必要なマネジメントスキルや部下への理解向上をサポートしています。多様な社員を抱えてお悩みの管理職の方は、ぜひ一度お問い合わせください。